中学校教員、そして小学生高学年の保護者という立場。学校に関わる2つの立場にいて感じることがあります。今の子どもを取り巻く現状は、まさに「船頭多くして船、山に登る」状態ではないでしょうか。疲れ果てた中学生、授業で寝ている中学生、体裁だけは整えるけれど、実質的な中身が伴っていない中学生を見て、そう思います。
中学生の一日を考えてみます。中学校では部活動があります。季節により活動時間も異なる事が多いですが、夏場には(公式には)18:30まで活動、という学校が多いようです。
中学校や教育委員会では「家庭学習に多く取り組ませたい」と考えています。家庭学習とは、塾などのように他の人から教わったりするのでなく、生徒自身が自ら家庭で行う学習です。各種学力調査で低位の学区にいると、なおさらその“空気”は強くなります。よく中学校で言われるのが、「(義務教育)学年×10分」(中学1年だったら義務教育7年目なので70分、3年だったら90分)というものです。多いと「学年プラス1時間」(1年だったら2時間、3年だったら4時間!)というのも聞きます。
さらに中学生に求めていることとして、規則正しい生活、睡眠時間は充分(8時間程度?)に、家の手伝い、さらには目先の進路を考えて塾に通う、というのもあるでしょう。そして友だちとも遊び、お稽古事もやる。でも現実、全部を行えますか?
平日、中学3年生で部活動があり、塾が無かった日を考えてみましょう。睡眠を23時~7時とします。18:30に活動終了、着替え等をして帰宅が19時。就寝の23時までの4時間に、夕食、手伝い、入浴、90分以上の家庭学習を行わなければなりません。かろうじて残った時間が自分の時間(のはず)。既にいっぱいいっぱいです。学校が求めていることを全てやると、塾やお稽古事に行く時間はないことになります。もし行きたければ何かを削らないと一日24時間の枠に収まりません。ではいったい何を削りますか?
中学校の運動部では、土日も含めて週に1回しか休みがない所が多いです。その週に1回も、試合前などは無い場合も多くあります。部活と塾・お稽古、家庭学習は時間的に排他的です。部活動も大切で家庭学習も必ずやりましょう、と言った時点で、学校は、実質的に平日は塾・お稽古に行くな、と言っているのと変わりません。しかも職員室や部活動(特に団体競技種目)では、休むことは「ありえない」空気です。
「○○(生徒)、たかだか家族旅行で試合前の練習に来ないんだ」
「それって責任感無いよね、家族旅行なんか、中学生以降、私は行ったこと無い」
などという会話が、ごく一般的な公立中学校の職員室で出ています。強豪校になればなおさらです。これが中学生の一日の現状です。
私は家に帰ると、小学生の息子たちの明日の準備や宿題の手伝いが必要です。自分から準備できればいいものの、なかなか思ったようにはいきません。たまたま息子たちの通う小学校では、図工や音楽など、専科ごとにバックと筆箱を準備しなくてはいけないため、それらを揃えるだけでもかなり大変です。そして宿題も、親が確認し、音読を聞き、そして連絡帳を点検しています。これらを全てきちんとやるだけで1時間以上はかかってしまいます。小学生の時点で、これに夕食と入浴が入れば、就寝時間は早くて21時。中学になって、これに部活や塾などが入ったら・・・。しっかりとやらせたいと思いながら、生活はどうなるのか心配でなりません。
中学生がやるべき事の一つ一つを見ていくと、部活動(異論もありますがここではさておきます)、家庭学習、睡眠、手伝い、塾など、個別に見ていくとどれも「大切」な事です。学校は部活や勉強が大切だと言い、家庭では手伝いをさせたく、また社会一般的には睡眠や友だちとのふれあいも大切だといいます。それぞれの立場で大切だと思うことを求めた結果、全体としては収拾の付かないキメラのような状態になってしまっています。それでいて、求めた事に対して「成果」を出さないと、それぞれの場面で子どもは叱られます。
しかし多くの生徒を見ていると、中学一年の二学期になる頃には中学校生活にも慣れてきます。そして周りが求めることに対して「成果」を出すようになってきます。時間的には、きっちりやろうとしたら一日24時間では足りないはずなのに、どうしているのでしょうか。つまり「要領」を覚えてくるのです。宿題等の提出物だったら、まずは答え丸写しでもいいから提出する。時間について、厳しく注意する人に対しては時間をしっかり守る(逆に言えば、見えないところでは手を抜く)。部活動も周りに合わせ同調して動く。こうしてモノゴトを要領よく行う事を学び、「中学生らしく」なっていきます。もちろん社会に出たらこうした「要領」も大切だと思います。しかしそれに頼りすぎ、実質的な中身が伴わない生徒が増えて来たと感じるのもこの頃からです。
さらに、要領よく出来る生徒ばかりではありません。一つ一つをきっちりやらないと納得できない生真面目な生徒、「やりましょう」と言われても自力ではなかなかこなすことのできない生徒、様々な面でこだわりを持った生徒などは、こうした「中学生らしく」なる事ができず、疲れ、悩み、学校に行くのが辛いという思いをしています。場合によっては「中学校生活になじめない」と、不登校になる生徒もいます。
「船頭多くして船、山に登る」状態の解決策としては、子どもに関わる様々な立場の人が意見を交換し、子どもの全体像を考えることだと思います。保護者、地域、教員、教育委員会、塾、稽古、その他子どもの発達に関わる知見を持つ方たち。もちろん、子ども本人も。大風呂敷ではありますが、そうでもしないと、本質的な解決はできないと考えます。いきなり全員は無理かもしれません。でもせめて、それぞれの立場の視点だけでなく、他から見たらどうなのか、そして全体像はどうなのかを考える姿勢だけでも必要だと考えます。
コラム「船頭多くして、子ども山に登る?」
— 教働コラムズ (@kyodo_columns) 2017年5月1日
中学校教員、そして小学生高学年の保護者という立場。学校に関わる2つの立場にいて感じることがあります。 https://t.co/NTUrAgg1XT
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