教員として 父親として

匿名

(公立中学教員)2017


 

私は小学生の頃からスポーツを続けており、自分が教員になったら部活指導をするということにも疑問はありませんでした。

 

 

大学を卒業し、中学校教員となった私は、自分が続けてきた運動部の主顧問となりました。しかし自分がプレーするのと、人に教えるのとでは勝手が違います。大学では教科指導の方法や生徒指導、道徳教育等についての学習はありますが、部活動の指導法を学ぶ授業はありません。平日の部活指導を終え、帰宅するのは21時を過ぎています。疲労により、帰路の運転中に睡魔に襲われる毎日。部活指導教本やDVDを買って勉強しようとはするものの、帰宅、夕食、入浴、残している事務仕事を終えるとすでに0時過ぎ。教材研究も部活動の勉強もまともにできずに翌日を迎える日々。試合で負けると、部活動に熱心な保護者からは「十分勝てる力がある子どもたちのはずだ。勝てないのは先生の指導が悪いからだ。」というクレーム。それでも自分が経験してきたスポーツだからこそ、何とかやっていくことができました。

 

 

採用校から転任すると、赴任先には私が続けてきた運動部はなく、初めての部活動を担当することになりました。まずはルールを覚えることからです。道具を自費で購入し、生徒とともに活動しながら、そのスポーツに対しての理解を深めていきました。副顧問でしたが、毎日部活指導は行いますし、遠征にも一緒に行きます。土日は泊りがけで家を空けることが多く、夫婦で一緒に過ごす時間はほとんどありませんでしたが、この頃はあまり不満はありませんでした。

 

 

その後、子どもが産まれ、自分の家庭をもちました。しかし子育てはほぼ妻に任せており、自分は仕事をしっかりすればいいだろうという考えでした。2人目の子が産まれてから、私の考えが徐々に変わっていきました。私が土日の部活動や遠征に行くときに、上の子は「お父さんと一緒にいたい」と泣きます。「仕事だから、一緒にいられないんだよ。ごめんね。」と伝え、泣いている子を妻に任せ、私は部活動に行きます。これが「時々」ではなく、「毎週」続くのです。大会や強化練習会等が続き、時期によっては2か月間の土日全てを部活指導に費やしていることもあります。もちろん平日は通常の勤務なので、休みはありません。私の両親も妻の両親も、訳あって孫の面倒を頼むことができません。そもそも子どもの面倒を祖父母や親戚に頼らなければならない労働環境自体がおかしいと思います。泣いている上の子と、まだ乳幼児の下の子を、妻は1人で世話しています。「仕事だから」と子どもには言ったけれど、本来仕事ではない。なぜ私は休日に自分の子どもの面倒を見ずに、他人の子どもを見ているのだろう。そんな疑問を抱くようになりました。

 

 

私はその後、自分の経験のない部活動をいくつか主顧問として担当しています。そのたびに本を買って勉強しています。「新しい部活動を担当するならしっかり勉強しないとね」という話を先輩の先生や保護者からされることがありましたが、本来の仕事ではないのに、なぜ時間をかけて勉強しなければならないのだろうとも思うようになりました。

 

 

新学習指導要領第1章総則には「生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については」という文言があります。私が働いている地域では、生徒は強制的に何らかの部活動に入部しなければいけません。「自主的、自発的」に反しています。そして教員については、「何部の顧問をしたいか」という希望はとりますが、「部活動顧問をするか、しないか」という選択肢はありません。文科省は全ての地方自治体に対して、学習指導要領に則った教育が展開されているか調査をする必要があると思います。

 

 

私自身は部活動を学校と切り離すべきだと思います。私の働いている地域だけかもしれませんが、大きな大会の前には授業時間を減らし、部活動の時間を長くしています。これは本末転倒だと思います。そして、部活動遠征等に関係する文書作成や手続きなど、部活動事務にも時間がかかり、教材研究の時間を圧迫しています。また、学級活動、生徒会活動、学校行事などの特別活動が充実している日本では、部活動がなくても教員と生徒との関係が希薄化する危険性は低いと思います。部活動で責任感や協調性、忍耐力が身に付けられるから学校教育に部活動は必要という意見もありますが、それらの力は部活動以外の場面でも十分に身に付けることができると思います。

 

 

もし部活動を学校から切り離さないのであれば、平日も時間外勤務を強要しているのですから、手当を支給すべきです。教職調整額(給与の4%)をいただいていることは知っています。例えば1か月の給与が25万円の先生は1か月に1万円を給料に上乗せしてもらっていることになります。月あたり、平日に15日、1日2時間程度の部活動を行うとすると、合計で30時間。10000÷30=333.33…。つまり平日は時給300円程度のお金で部活指導をしていることになります。給与が30万円の先生でも時給400円程度です。もちろんこの時給換算は、部活指導が終わったらすぐに退勤するとした場合のものですから、部活指導後の仕事については考えられていません。

 

 

現在教育に関係することもしないことも、様々な制度が変わってきています。部活動に関する制度も大きな変革が必要だと思います。「学校の先生だから」では済まされません。「学校の先生」も職業の1つです。教員が、自分の仕事も、自分の家族と過ごす時間も大切にできるような労働環境に改善される日が来ることを待ち望んでいます。