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滋賀県教委の取り組みについて

ひこにゃんアナリスト 近畿 滋賀県人

 

 

 滋賀県で授業前の朝練習は原則禁止になったことが各メディアに取り上げられ、記憶にある方もおられるだろう。実際に子供が通う中学校では秋季中体連大会終了後2017年10月23日以降、朝練はなくなり朝8:00に開門となった。これは驚くべき変化であり、滋賀県教委の取組に敬意を表する。

 

 朝練廃止に次いで滋賀県教委を評価したいのは、部活動指導員制度の導入についても積極的であること。既に中学校では20人の部活動指導員が今年度予算6,950,000円(1/3は補助事業として国が負担)としてあがっている。滋賀県の公立中学校数100校(うち県立3校・市町立97校)と比較すると20人という数字は少ないように感じるが、事前に市町村への調査を行いこの予算を設定したものなのである。どの部活に指導員を付けるか、誰に依頼するか、等の判断は各学校に一任されており、部活動指導員を希望するかどうかという教委の調査に対しての現場の反応を表した数字なのである。これについて滋賀県教委保健体育科の担当者は、「従来の外部指導員(部活動指導員とは違って、単独引率ができない学校協力者という立場)や無償のボランティアで協力してくれる地域の指導者がおられたりすると、辞めてもらうわけにもいかず、今年度以降も今まで通りの運営方法でやっていこうと考える学校が多いのではないか。そういった部活が部活動指導員の導入に移行しようとするかどうかはこちらとしても一年目の取り組みなので探り探りである。本格的な実施ではあるが今後の見通しが掴みきれていないのが正直なところである。」と胸の内を語った。

 

 また、高校では本格的な実施には至らないものの、運用に向けて部活動指導員配置促進事業のモデル校を4校選出する。現在(5月時点)各学校からの希望調査中で、近日中に4校が決定されるとのことである。今年一年間の運用を通して、来年度以降運用するのか廃止するのか見極めるとのこと。モデル校に選出された学校、そして部活動指導員が配置された部活については、実用に向けての運用情報提供と制度洗練の議論を期待したい。

 

 その他、「年間活動時刻の上限を17:45までとし、18:00完全下校を徹底する」「改革を実効性のあるものにするため原則例外規定は設けない」など、取り組みに積極性が見られる。

 

 

 

 次に、休養日について見てみよう。実は、2018年3月にスポーツ庁が発表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」に先駆けて、1月31日に滋賀県独自の部活動ガイドラインが発表されていた。「休養日は週2日以上、平日1日以上、土日で1日以上。1日の活動時間は平日2時間、休日3時間程度。高校にも原則適用。」と定めた国のガイドラインの一方で、滋賀県の独自ガイドラインでは実は「高校では週1日以上かつ4週に2日は休みになるようにし、平日練習は3時間以内、休日は4時間程度とする。」といった内容になっていることはあまり知られていない。

 

 国の指針より平日・休日ともに活動時間が1時間長いことについては「生徒にとって適切な活動時間という観点、部活のそもそもの目的は?という議論にも発展する中で、全体として働き方改革と言われていること、生徒の健康面を考えた中で国の基準を尊重しながら決定したものである。」との回答を滋賀県教委から得た。

 

 この独自ガイドラインが発表されるまでの流れはこうである。2017年5月から行われていたスポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」での進行等を意識しながら滋賀県教委(保健体育課・高校教育課・幼小中教育課・特別支援教育課)で検討し、ほぼ同時期から傍聴者を受け入れつつ開催された滋賀県教委「働き方改革推進会議」の有識者委員(下図参照、滋賀県教委 働き方改革推進会議 委員名簿より)らと意見の擦り合せをし、決定に至ったのである。そして本年度(2018年度)のうちに国の定めたガイドラインを踏まえた改訂を行い、2019、2020年と運行状態をみながら見直していくということだ。

 

 

ところで滋賀県における公立教員の部活動手当は中高ともに国の基準通り、4時間以上で3600円。(これは4時間以上で3000円という額が600円増額されたものである。)平日の部活動指導を含む超過勤務に手当は無い。この条件はほかの自治体、県教委と比較しても珍しいことではないだろう。つまり、中学校教員が部活動顧問を引き受けてガイドラインに沿った部活運営をすると、平日は手当なし、休日3時間の指導には手当がつかないため、手当ゼロということになる。一年間手当ゼロ。これについて教育予算削減の意図があるのかと教委に尋ねたところ、本ガイドライン作成に当たっては特に予算を加味したものではない、特殊勤務手当が制定された当時にはそのような意図があったかもわからない。」とのことであった。教員の人権、労働問題を無視した制度設計。これは滋賀県教委だけでなく、スポーツ庁の出した国全体の指針について抱く疑問である。

画像は滋賀県教委が2018年3月に策定した「学校における働き方改革取組計画」の目標で、月当たり超過勤務時間が45時間超の中学校教員の割合を50%以下にするというものである。月当たり超過勤務45時間とは、平日1日につき約2時間ずつ残業すると達成してしまう数値である。これと、平日2時間休日3時間(高校においては平日3時間休日4時間)という部活動ガイドラインとの整合性は非常にアンバランスである。

 

2016年に実施された教員勤務実態調査では「中学校教諭の1日の平均勤務時間は平日で11時間32分(06年度比32分増)、土日で3時間22分(同1時間49分増)。業務別でみると、土日の「部活動・クラブ活動」が2時間10分(同1時間4分増)と倍増した。過労死ライン(残業月80時間)に達する計算になる週60時間以上勤務した教諭は57.7%。うち過労死ラインの2倍に相当する週80時間以上は8.5%いた。」とされている。

 

 

 

滋賀県教委の取り組みは他と同様に旧来然のきらいはあるが、全国と相対的に見ると非常に積極的であると捉えている。先に述べた滋賀県教委「働き方改革推進会議」の有識者委員の中には、部活動の意義を主張する方、教員の労働問題を主張する方、双方の意見が出ているそうだが、発表結果を見ると前者の意見がより強いように見える。中教審「学校の働き方改革特別部会」やスポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」と似たような縮図ではなかろうか。国が指針を出した今現在、これからの段階においては地方教委が危機感とスピード感を持って働き方改革に取り組み、いちはやく部活動指導員を定着させることが教員の働き方改革に寄与する最も最短の道筋であるように思う。これ無くして、その後のビジョンは語れない。

 

 

 

最後に、滋賀県で学校の働き方改革に関心を寄せる方がいましたらぜひ繋がりたく、その旨こちらの教働コラムズさんに依頼してありますので、「滋賀県のひこにゃんアナリストに繋いで欲しい」とお問い合わせいただければ幸いです。

 

 

 

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◆参考リンク

働き方改革推進会議「学校における働き方改革を進めていくための取り組みの方向性について(議論まとめ)」2018.1

滋賀県教委「学校における働き方改革取組計画」2018.3策定

 

◆参考記事

京都新聞「教員残業減へ数値目標 滋賀県教委、中学部活は週2日以上休み」 2018年02月01日

毎日新聞「滋賀県教委 部活の朝練禁止に 教員の働き方改革で方針」2018年2月1日