小阪 成洋 元教員
はじめに
本資料を叩き台として,皆様がより精緻な視点を獲得される一助になれば幸甚です。
1.あれ?…どうして対立が?
下のような対立を,インターネット上で何度も拝見しました。
教員A
「部活動で土日がなくて,50連勤を越えました。練習日を減らしたこともありました。しかし,保護者から「休みを増やして,怠けようするのは反対!教師として,生徒のためにもっとたくさん部活動をやってほしい!」と厳しい要求がありました。毎月の残業が100時間を超えていて,死にそうです。保護者のせいで,教師は酷い目に遭っているのです!」
保護者B
「「保護者のせいで」と言われるのは,とても心外です。むしろ,私たち保護者だって,毎日休みなく長時間の部活動があって困っています。うちの学校は生徒全員が必ず部活動に入る決まりになっています。関心があって入っただけの部活動だったのに,連日長時間の練習でうちの子は疲れ切っています。転部も退部も許されません。子どもは疲れ切っていて,家ではクタクタで何も手につきません。休日に家族で出かけることもできません。教師が子ども・保護者を酷い目に遭わせているのです!」
上では,教員Aと保護者Bがお互いに「あなたのせいで!」と対立してしまっています。しかし,教員Aも保護者Bも,望んでいることは同じです。「部活動の休みを増やしたい」「練習時間を短くしたい」等,共通しています。それなのに,なぜ対立してしまうのでしょう?
上図では,部活問題の対立構造について整理を試みました。生徒・保護者・教員ともに部活動に関わっています。その中で〔グループⅠ〕は「周囲を巻き込み,巻き込まれた人の苦しみに配慮せずガンガンやる」群です。この群は,加熱化・肥大化してきた現状の部活動が快く,特に問題意識を抱いていません。一方で,〔グループⅡ〕は「ガンガンやるよりも,楽しみたい」「部活動には参加したくない」という群です。
いかがでしょうか?
2.宛先の勘違いが対立のもと?
前ページの教員Aも保護者Bも〔グループⅡ〕の人たちです。教員Aは〔グループⅠ〕の保護者に向けてメッセージを発しています。それに対して,〔グループⅡ〕の保護者Bが「心外だ」と感じているわけです。保護者Bは「心外だ」と気分を害する必要はありません。なぜなら,教員Aのメッセージは保護者Bに宛てられたものではないからです。また,保護者Bとそのお子さんを苦しませているのは〔グループⅠ〕の教員や外部指導者等です。ですから,保護者Bのメッセージもそちら宛ということになります。そのため,教員Aが気分を害する必要もありません(教員として子ども・保護者の苦しみを受け止めるべき立場にあることは言うまでもありません)。教員Aも保護者Bも「お互いに,同じ問題意識を抱いているんだ」ということになります。
おわりに
活発に議論されるのはよいのですが,特にインターネット上では[宛先不明]が引き起こす対立がありそうです。でも,実は対立していないのかもしれません。部活動のあり方についての議論が活発になってきています。これまで議論の俎上にものぼっていなかったことからすれば,大きな進展です。しかし,時に「言葉づかいが酷い」という場合があります。議論を続けながら,今後はそれを乗り越えていく必要があるのではないでしょうか。
※ 本稿は2017.8.6に開催された「第2回 部活動のあり方を考え語り合う研究集会in大阪」にて小阪氏が登壇した際の発表資料を抜粋したものです。
コラム「『生徒・保護者-教員』間の対立を,交通整理してみると…?-対立を乗り越える視点」小阪 成洋 元教員
— 教働コラムズ (@kyodo_columns) 2017年12月24日
活発に議論されるのはよいのですが,特にインターネット上では[宛先不明]が引き起こす対立がありそうです。でも,実は対立していないのかもしれません。
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