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「教育コンビニ」化した学校と、コスト意識の欠如について

大鳳 優子 関東 50代 公立小中学校事務職員

 

 

 

わたしはもういい歳のおばさんなもので、

コンビニエンスストアなるものが自分の身近にあらわれたときのことを、よく覚えています。

朝は7時から夜は23時まで開いているなんて、すごいお店ができたものだ、と。

その「すごい店」はいつしか、24時間営業があたりまえになりました。

はじめはかぎられたお店でしか扱えなかったお酒や煙草が、いまではどこのコンビニでも売られています。

そのうち各社の宅配便を送るための窓口になり、

公共料金が納められ、店内には郵便ポストがあって、銀行のATMが備えつけられる場所に、コンビニはなりました。

はじめは味気なかったおにぎりや弁当はどんどん美味しくなりましたし、

通販サイトで買った商品を受け取るついでに、当選したコンサートのチケットを発券することもできます。

レジ前のドーナツやコーヒーの味には価格以上の満足があって、冬ともなればおでんや中華まんも楽しめる。

ほんとうに消費者の欲望をたくさんかなえてくれる場所に、コンビニはなったと思います。

コンビニのこうした変化は、営利企業によって経営されていて、

わたしたちの果てしない欲望に応えることで利益を最大化しようと努力しているからです。

 

学校現場でお仕事をされている教職員の皆さんにはもう、

わたしの申し上げたいことをご理解いただけたかもしれません。

公立学校は「教育コンビニエンスストア」になってしまった、ということをです。

あらためて申し上げるまでもなく、公立学校は地域住民の子女にあまねく教育を行なうための場所です。

それこそが学校の本来業務であり、授業こそがその中心でした。

「でした」と過去形を使ったのは、いま現在、学校の現状がそうではなくなっているからです。

授業が終われば部活動の指導、と言いつつ実際は生徒に活動をまかせて、

教員自身は職員会議や校内研修、生徒指導や進路指導に、さまざまな校務分掌や任意団体の事務、

そうしたものに肝心の教材研究や授業準備もままならないほど時間を奪われ、

さらには「開かれた学校を」「生きる力を」「基礎基本の定着を」「グローバル教育を」「アクティブラーニングを」と

そのときどきの教育トレンドを押し付けられてその研究に奔走させられ、

週休日も祝日も部活動の指導……。

学校に勤務しながらも教員ではないという微妙な立場であるわたしから見た、

業務は増え続け、しかしそのために必要な人的資源は補充されないという教育現場の、これが現実です。

 

少しだけコンビニに話を戻しましょう。

ちょっと店内をぶらつきながら、さまざまなオペレーションに奔走する店員さんの姿を観察してみてください。

レジに立ち、品出しをし、宅配便を受付け、また品出しをし、フライヤーで総菜を揚げ、またレジに戻って……。

繰り返しになりますが、

コンビニエンスストアでのこうした業務の増加は、

営利企業のふるまいとしては当然のものです

(無論のこと、そこにも経営者やアルバイトが酷使され搾取される構造があるのですが……)。

しかしながら、そこでは「利益を最大化する」という大目標のために、

業務効率の見直しやコストの削減が、常に行なわれていることでしょう。

 

ひるがえって、公立学校ではどうでしょうか?

「行事の精選を」

「教育の主体を本来あるべき家庭へ」

「ライフワークバランスの適正化を」

と言いながら、実際には次々に新しい業務が投げ込まれています。

そこには

「これだけの人的資源を投入した結果として、こうした生徒の変容がみられた」

「これだけのコストをかけたが、期待していたほどの教育的効果は得られなかった」

といったような、民間企業ではあたりまえのPDCAサイクルがありません。

よく口にされるのは

「子どもたちのためになるのだから」

という一言ですが、それは教育に関わる人々の思考を停止させる悪魔の言葉です。

何をやっても「子どもたちのためになる」かもしれませんが、

そのために投じたコストは、得られた結果に見合ったものだったでしょうか?

教職員の時間を浪費し、時として重圧から精神を病ませ、あるいは過労死に至らしめてまで、

コスト意識のない業務に従事させることが必要なのでしょうか?

 

こうした学校の現実は、

すべての児童生徒の保護者にこそ周知されるべきだとわたしは考えています。

あなたがお子さんを預けておられる学校は、いまやそのような場所に成り果ててしまいました。

ここに記したようなことを、あなたはご存知でしたか?

「確かな学力を」と口にしながら、学校がそれが実現できない状況にあるとしたら、

あなたは学校に対して不安や不信を覚えませんか?

 

ここに記したような学校現場の状況はそこで働く教職員こそが日々実感しており、

教育行政の内部にいる教職員の力だけでは改善することが難しいものです。

さまざまなお立場の方が学校現場をよりよいものへ改めるためお声を上げてくださることを願い、

恥ずかしながらこのような駄文を寄せさせていただきます。